Living Well Is the Best Revenge


優雅な生活が最高の復讐である
by クリティック
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カテゴリ:PASSAGE( 26 )


0026

私は恥じている。なにを見ても―まったくのところ消えてなくなりたいほどだ。この虚脱、この羸弱は本来私に装飾されるものではなかった。人間が当今までなし得た否定は或るまとまった、完全な、そのものとしてはただそれだけの、謂わば非常に「自己的なもの」に過ぎなかった。人間が嘗て人間を捻り歪み得たとは、誰だって信じてやしない、その癖、それは奇妙な屈辱で…。

by gravity97 | 2018-07-04 21:54 | PASSAGE | Comments(0)

0025

もし幸運にも、若者の頃、パリで暮らすことができたなら、その後の人生をどこですごそうとも、パリはついてくる。パリは移動祝祭日だからだ。



by gravity97 | 2017-07-31 22:13 | PASSAGE | Comments(0)

0024

私が学生時代に描いていたような、いわゆる「抽象画」は現在の私の心にはほとんど訴えかけてこなかった。私はそのようなタイプの絵画にもう心を惹かれなかった。今の時点から振り返ってみれば、私がかつて夢中になって描いていた作品は、要するに「フォルムの追求」に過ぎなかった。青年時代の私は、フォルムの形式美やバランスみたいなものに強く惹きつけられていた。それはそれでもちろん悪くない。しかし私の場合、その先にあるべき魂の深みにまでは手が届いていなかった。そのことが今ではよくわかった。私が当時手に入れることができたのは、比較的浅いところにある造形の面白みに過ぎなかった。強く心を揺さぶられるようなものは見当たらない。そこにあるのは、良く言ってせいぜい「才気」に過ぎなかった。



by gravity97 | 2017-02-26 15:53 | PASSAGE | Comments(0)

0023

猫の足、鉄の爪
神経外科医がもっとよこせと叫ぶ
妄想症に毒された扉の前で
21世紀の精神異常者

血の拷問台、有刺鉄線
政治家たちの火葬の薪
ナパーム弾の炎に蹂躙される純潔
21世紀の精神異常者

死の種子、盲人の貪欲
詩人の飢えた子供は血まみれ
本当に必要なものは与えられることがない
21世紀の精神異常者

by gravity97 | 2015-12-10 17:55 | PASSAGE | Comments(0)

0022

私を強くひきつけるのは、例えば迷宮入り事件のように、未解決性、未決定性、可能性などの「空虚」を充満した事物であります。
漁師が海に釣り糸を垂れます。浮標が海面に浮かんだとき、膨大な海水の体積は、突如可能性の空洞に変貌します。事物の充満はスクラップの山であります。たとえそれが魅力的な女性であっても、傑作といわれる芸術作品であっても、あるいは爽快さを与えてくれる青空であっても同じことであります。「空虚」が充満しなければなりません。
魚が漁師の針にかかり、それを手元に引きあげるとき、その一匹の魚は、彼をとりまく全空間に充満します。魚は釣れてはいけないのです。ここに最も重要な問題があります。逃がした魚がいくら大きくとも、いまだ姿をあらわさない魚は、大きさについてばかりでなく、釣るべき魚として完璧です。不可解な事件を警察は解明してはいけないのです。どうして探偵作家は、せっかく築きあげたみごとな空虚に、結末でもってスクラップをぎっしりつめてしまうのでしょう。

by gravity97 | 2014-12-05 21:32 | PASSAGE | Comments(0)

0021

「夕方、開店したばかりのバーが好きだ。店の中の空気もまだ涼しくきれいで、すべてが輝いている。バーテンダーは鏡の前に立ち、最後の身繕いをしている。ネクタイが曲がっていないか、髪に乱れがないか。バーの背に並んでいる清潔な酒瓶や、まぶしく光るグラスや、そこにある心づもりのようなものが僕は好きだ。バーテンダーがその日の最初のカクテルを作り、まっさらなコースターに載せる。隣に小さく折り畳んだナプキンを添える。その一杯をゆっくり味わうのが好きだ。しんとしたバーで味わう最初の静かなカクテル―何ものにも代えがたい」

by gravity97 | 2014-09-10 21:23 | PASSAGE | Comments(0)

0020

たとえば「批評」をめぐって書きつがれようとしながらいまだ言葉たることができず、ほの暗く湿った欲望としての自分を持てあましていただけのものが、その環境としてしてある湿原一体にみなぎる前言語的地熱の高揚を共有しつつようやくおのれを外気にさらす覚悟をきめ、すでに書かれてしまったおびただしい数の言葉たちが境を接しあって揺れている「文学」と呼ばれる圏域に自分をまぎれこまそうと決意する瞬間、あらかじめ捏造されてあるあてがいぶちの疑問符がいくつもわれがちに立ち騒いでその行く手をはばみ、そればかりか、いままさに言葉たろうとしているもののまだ乾ききってもいない表層に重くまつわりついて垂れさがってしまうので、だから声として響く以前に人目に触れる契機を奪われてしまうその生まれたての言葉たちは、つい先刻まで、自分が言葉とは無縁の領域に住まっていたという事態を途方もない虚構として忘却し、すでに醜く乾涸びたおのれの姿をもはや郷愁すら宿ってはいない視線で撫でてみるのがせいぜいなのだが、そんなできごとが何の驚きもなく反復されているいま、言葉たるためには耐えねばならぬ屈辱的な試練の嘆かわしい蔓延ぶりにもかかわらず、なお「批評」をめぐって書きつがれる言葉でありたいと願う湿った欲望を欲望たらしめているものが、言葉そのものの孕む不条理や夢の磁力といったものであり、しかも、その夢の目指すところのものが、言葉自身による「批評」の廃棄というか、「批評」からそれが批評たりうる条件をことごとく奪いつくすことで「批評」を抹殺し、無効とされた「批評」が自分自身を支えきれずに崩壊しようとするとき、かりに一瞬であるにせよ、どことも知れぬ暗闇の一劃に、人があっさり「文学」と呼んでしまいながら究めたこともないものの限界、つまりはその境界線を投影し、かくして「批評」の消滅と「文学」の瞬間的な自己顕示とが同時的に進行すべく言葉を鍛えておきたいという書くことの背理の確認であるとすれば、誰しも、おのれ自身の言葉の幾重にも奪われているさまに改めて目覚め、書き、そして読むことの不条理に意気阻喪するのもまた当然といわねばならぬ。

by gravity97 | 2014-08-12 15:59 | PASSAGE | Comments(0)

0019

 彼は、予言の先回りをして、自分が死ぬ日とそのときの様子を調べるためにさらにページをとばした。しかし最後の行に達するまでもなく、彼はもはやこの部屋から出るときのないことを知っていた。なぜならば、アウレリャーノ・バビロニアが羊皮紙の解読を終えたその瞬間に、この鏡の、すなわち蜃気楼の町は風によってなぎ倒され、人間の記憶から消えてしまうことは明らかだったからだ。また百年の孤独を運命づけられた家系は二度と地上に出現する機会を持ちえぬため、そこに記されていることの一切は、過去と未来を問わず、永遠に反復の可能性はないことが予想されたからだった。

by gravity97 | 2014-04-20 08:49 | PASSAGE | Comments(0)

0018

ジェフ・クーンズは椅子から立ちあがったところだった。興奮のあまり両腕を突き出している。クーンズと向かい合って、白い革のクッションの上でやや体を屈めたダミアン・ハーストは、何か反対意見を述べようとしているらしかった。クッションの一部には絹織物が掛けられている。ハーストの顔は赤みを帯び、表情は陰気だった。二人とも黒いスーツ―クーンズのスーツは細いストライプ入り―に白いシャツという姿で、黒いネクタイをしめていた。二人のあいだに置かれたローテーブルには、フルーツコンフィがはいった籠が置いてあるが、両者とも見向きもしない。ハーストはバドワイザー・ライトを飲んでいる。

by gravity97 | 2014-02-26 22:26 | PASSAGE | Comments(0)

0017

オリュウノオバは或る時こうも考えた。自分の一等好きな時季は春よりも生きとし生ける物、力のありったけを出して開ききり伸び切った夏、その夏よりも物の限度を知り、衰えが音もなしに量を増し幾つもの管が目づまりし色あせ、緑色なら銀色に、紅い花なら鉄色に変りはじめる秋、その秋よりも枯れ切った冬、その冬よりも芽ぶく春。オリュウノオバは時季ごとに裏山で鳴く鳥の声に耳を澄まし、自分が単に一人のオリュウではなく、無限に無数に移り変る時季そのものだと思っていた。

by gravity97 | 2013-12-02 22:11 | PASSAGE | Comments(0)