2010年 10月 27日
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老人は暖炉の中の炎をにらみつけ全身を武者ぶるいさせながら、パイプの柄を思い切り噛みしめる。
すると一度、かちっと暖炉の薪のような音がした。
パイプの柄を口から離してながめている老人のようすからして。それがもう二度ともとに戻らないのがわかった。
家の中は仄暗い。
老人は電灯を使わない。貧困のせいであり、またけちな根性のせいでもあった。どんなに気前よくふるまおうとしても、生活が質素なのは、プロスペクト山のほかの住人―いやマサチューセッツの州ざかいからカナダにいたる地域にすべての人々と同じなのだ。
世の中に、金を払って買うにあたいするものなど、ほとんどない。
老人の背後の暗闇に置かれたテレビにまるで前歯が抜けたようにぽっかり黒い穴があいているのもそのせいだ。三週間ほど前のこと、老人はテレビに12口径のショットガンを向けたのだった。