カテゴリ:PASSAGE( 25 )

0005

もちろん、オドラデクと呼ばれる生き物が実際に存在するというのでなければ、誰もそんな語源詮索にかかずらいはしないだろう。この生き物は、さしあたり、平べったい星形の糸巻きのように見え、事実また、糸が巻きつけられているようでもある。もっとも、糸といってもそれは実にさまざまな種類、色の、古い糸きればかりが結び合わされたものらしく、しかもひどくもつれている風なのだ。ところで、これはただの糸巻きではなく、星形部分の中心から一本の小さな棒が突き出しており、この棒に、さらにもう一本の棒が直角に組み合わされている。一方ではこのふたつめの棒を、他方では星形部分のとんがりのひとつを支えにして、全体が、二本の足で立つようにまっすぐに立っていることができる。
by gravity97 | 2010-08-01 21:31 | PASSAGE | Comments(0)

0004

闇……。私は頑固な不眠症を殆ど持病のように飼っているので、どちらかといえば、深夜、闇につつまれた寝床のなかで凝つと息をひそめたまま言い知れぬ不快を噛みしめている時間がむしろ多いくらいである。手をのばして微かな不安の裡にまさぐつてみる僅かな前方も、想像し得るかぎりかけはなれた数十億光年彼方の宇宙の果てもまた同質の闇にどつぷりとつつまれている筈のこの眼前を凝つと果てしもなく眺めつづけていることは、私にとつて、いきな猿臂をのばし、むずと掴んで締めあげたいほど忌まわしい痛憤の時間なのであるが、と同時に、それは、そんな自分を噛みしめて何物かを自分のなかに掘つてみる限りもなく抑えに抑えた時間、まあいつてみれば、一種の《静謐な歯ぎしり》の時間なのでもある。
by gravity97 | 2010-04-25 20:30 | PASSAGE | Comments(0)

0003

イルゼビルは塩を加えた。妊娠する前は、羊の肩肉にいんげん豆と梨を添えたのが出た。10月の初めだったからだ。まだ食事が終わらないうちから、口いっぱいに頬張ったまま、彼女は言った。「直ぐベッドへ行きましょうか、それともその前にお話して下さる、私たちの物語が、いつどこで始まったか?」
by gravity97 | 2010-02-04 21:44 | PASSAGE | Comments(0)

0002

批評のテクストの持つ意義は、ほとんど全面的にその方法にある、と主張することができるだろうか? どのような評価的陳述にせよ-「これは優れている、重要だ」とか「これはよくない、ありふれている」-その内容が、シリアスな批評において、シリアスに読まれるべきことなのではない、と考えられるだろうか? それどころか、シリアスな批評とは、その議論の形式によって理解されるということ、すなわち、その方法が、批評対象を構成してゆく途上で、あらゆる判断行為に先行し、それを前もって決定することになったもろもろの選択を、目に見えるかたちで示していくそのやり方によって理解されるのだ、と。
by gravity97 | 2009-11-27 20:02 | PASSAGE | Comments(0)

0001

長い歳月がすぎて銃殺隊の前に立つはめになったとき、おそらくアウレリャーノ・ブエンディーア大佐は、父親に連れられて初めて氷を見にいった、遠い昔のあの午後を思い出したに違いない。
by gravity97 | 2009-10-10 22:15 | PASSAGE | Comments(0)