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0014

首都の街区に、もう幾度目か分からなくなった冬が来ている。街路のプラタナスは、葉を散らせ尽して、既に久しい。かつて夜の中でゆらめいていた十字路に立てば、炎は地下深く埋葬され、その上を窓のない車が通り過ぎるばかりだ。

未完成の散文詩は、このように書き出されていた。それはきみと彼女の合作ともいうべき作品であり、そこには幾つもの年代と、来るべき個体の死と再生の予感に充ちみちた言葉が刻みこまれてあった。僕たちの時代を総括しようとするその最初の努力は、1970年代の丁度中間の年に、きみから僕へと手渡されたまま、この時代の中で消し去られようとしているのだが、そして実際、その紙片は僕の部屋の中でどこへ行ったかもわからなくなってしまっているのだが、僕がいま譲り受けたいと思っているその散文詩の表題はといえは、それは明るいブルーのインクを使った橘素子の伸びやかな文字で―

風のクロニクル、と書かれてあったのだった。

by gravity97 | 2013-01-22 21:28 | PASSAGE | Comments(0)

0013

 私らは侮辱のなかに生きています。いま、まさにその思いを抱いて私らはここに集まっています。私ら十数万人は、このまま侮辱の中に生きていゆくのか? あるいはもっと悪く、このまま次の原発事故によって、侮辱のなかに殺されるのか?
 そういうことがあってはならない。そういう体制は打ち破らなければならない。私らは政府のもくろみを打ち倒さねばなりません。それは確実に打ち倒しうるし、私らは原発体制の恐怖と侮辱のそとに出て、自由に生きていくことができるはずです。そのことを私はいま、みなさんを前にして心から信じます。しっかり、やりつづけましょう。

by gravity97 | 2012-08-09 21:24 | PASSAGE | Comments(0)

0012

予告されたタイトルでまとめられた友人の最終の本がニューヨークの地味な書店から出た時(その本のうしろカヴァーに私の短文がある)、私は長編小説を書いていた。そしてそのまま続けて来たが、「3・11後」それに興味を失った。しかも私はこれまでの仕方で本を読み続けることができなくなっている。あれこれ読んでみないのではないが、かつてのようには集中できなくなった。読み始めるとすぐ、心ここにあらずというふうになる。それでは、残っている過ごすべき時間をどうしたものか?

by gravity97 | 2012-07-26 22:44 | PASSAGE | Comments(0)

0011

空はまだ明けきってはいなかった。通りに面した倉庫の横に枝を大きく広げた丈高い夏ふようの木があった。花はまだ咲いていなかった。毎年夏近くに、その木には白い花が咲、昼でも夜でもその周辺にくると白の色とにおいに人を染めた。その木の横にとめたダンプカーに、秋幸は一人、倉庫の中から、人夫たちが来ても手をわずらわせることのないよう道具を積み込んだ。

by gravity97 | 2012-04-07 23:14 | PASSAGE | Comments(0)

0010

Neon lights
Shimmering neon lights
And at the fall of night
This city is made of light

by gravity97 | 2011-12-25 20:55 | PASSAGE | Comments(0)

0009

夜、風が吠え、それにこだまして音を立てる炉の傍ら、木の寝台のなかで子供が静かに眠り続けるとき、ぼくはランプを灯して歩きまわる。友だちのことを考えながら―ジュスティーヌとネッシムのことを、メリッサとバルタザールのことを。ぼくは記憶の鉄鎖をひとつひとつたぐって、ぼくたちがほんの僅かのあいだいっしょに住んでいたあの都会へと戻って行く。ぼくたちをおのれの植物群と見ていたあの都会、ぼくたちのなかに争いを巻き起こしたあの都会―その争いは彼女のものにほかならなかったのに、ぼくらは自分たちのものだと思い違えたのだ。愛するアレクサンドリア!

by gravity97 | 2011-07-02 22:09 | PASSAGE | Comments(0)

0008

彼は1882年4月30日の明け方の南の雲の形をおぼえており、それらを、追憶の中にある、たった一度みたことのある革表紙の本の大理石模様のデザインと比べることができた。また、それをケプラーチョの闘いの前夜に舟のオールがネグロ川にえがいたしぶきの縞模様とも比べることができた。これらの追憶は単純ではなかった。それぞれの視覚的なイメージは、筋肉の感覚、熱の感覚などにつながっていた。彼はすべての夢やすべての幻想を再現することができた。二、三度、彼は一日全体を再現してみせた。彼は「わたしは自分ひとりの内部に、この世がはじまって以来すべての人間がもっていた以上の記憶をもっています」と言った。

by gravity97 | 2011-04-26 09:59 | PASSAGE | Comments(0)

0007

ただひとり、私はグランド・ホテルのまえにぽつんと立ちつくして、ふたたび祖母のところに戻ってゆく時間の来るのを待った、とそのとき、浜の堤防のまだほとんどはずれのあたりに、奇妙な一つの斑点が動くように見えて、五、六人の小娘たちがこちらに進んで来るのを私は見たが、バルベックで見なれているどんな人たちとも違ったその様子、そのかたちは、あたかも、一群のかもめが、どこらかともなく上陸して、渚の上を―遅れたものは飛びながらまえのものに追いついたりして―歩調を合わせながらさまよっているかのようであり、ただそれが何のためにさまよっているのか、鳥の精のような娘たちにはその目的がはっきりしてるのであろうけれど、彼女たちの目にもうつらない海水浴客たちにはいっこうに不可解に見えた。

by gravity97 | 2011-01-04 21:00 | PASSAGE | Comments(0)

0006

「頽廃? ぼうず、頽廃のことを話してやろうか!」
老人は暖炉の中の炎をにらみつけ全身を武者ぶるいさせながら、パイプの柄を思い切り噛みしめる。
すると一度、かちっと暖炉の薪のような音がした。
パイプの柄を口から離してながめている老人のようすからして。それがもう二度ともとに戻らないのがわかった。
家の中は仄暗い。
老人は電灯を使わない。貧困のせいであり、またけちな根性のせいでもあった。どんなに気前よくふるまおうとしても、生活が質素なのは、プロスペクト山のほかの住人―いやマサチューセッツの州ざかいからカナダにいたる地域にすべての人々と同じなのだ。
世の中に、金を払って買うにあたいするものなど、ほとんどない。
老人の背後の暗闇に置かれたテレビにまるで前歯が抜けたようにぽっかり黒い穴があいているのもそのせいだ。三週間ほど前のこと、老人はテレビに12口径のショットガンを向けたのだった。

by gravity97 | 2010-10-27 20:48 | PASSAGE | Comments(0)

0005

もちろん、オドラデクと呼ばれる生き物が実際に存在するというのでなければ、誰もそんな語源詮索にかかずらいはしないだろう。この生き物は、さしあたり、平べったい星形の糸巻きのように見え、事実また、糸が巻きつけられているようでもある。もっとも、糸といってもそれは実にさまざまな種類、色の、古い糸きればかりが結び合わされたものらしく、しかもひどくもつれている風なのだ。ところで、これはただの糸巻きではなく、星形部分の中心から一本の小さな棒が突き出しており、この棒に、さらにもう一本の棒が直角に組み合わされている。一方ではこのふたつめの棒を、他方では星形部分のとんがりのひとつを支えにして、全体が、二本の足で立つようにまっすぐに立っていることができる。

by gravity97 | 2010-08-01 21:31 | PASSAGE | Comments(0)
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優雅な生活が最高の復讐である


by クリティック
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