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シュルレアリスム美術をどう語るか

 『水声通信』の最新号(23号)は「シュルレアリスム美術をどう語るか」を特集している。20号の「思想史のなかのシュルレアリスム」に続き、東京都写真美術館における「シュルレアリストと写真 痙攣する美」を契機に企画されたと思しきこの特集は二つの点に特色がある。まずこれまで文学との関連で論じられることが多かったシュルレアリスムをあくまでも美術の問題として捉え直している点、そして「何を」語るかではなく、「いかに」語るかという点が主題とされている点である。2002年と2006年にいずれもパリのポンピドーセンターで開催されたシュルレアリスムとダダイスムの大回顧展をはじめ、今年もMOMAでダリの回顧展が準備されるなど、今世紀に入って世界的にシュルレアリスムのリヴァイバルが認められ、本特集もこのような傾向に連なるものといえよう。
 シュルレアリスム美術に関する研究は80年代以降、特異なかたちで深められている。端的に述べるならば、これまでモダニズム美術の傍系として美術研究において否定的にとらえられてきたシュルレアリスムを逆にモダニズム美術を相対化する契機として読み直す視点が次々に提起された。シュルレアリスムとは微妙な距離をとるバタイユへの関心、特にアンフォルムという概念への関心が一つの焦点をかたちづくっていることは疑いえない。冒頭を飾る林道郎と鈴木雅雄の公開書簡をはじめ、収録された論文の多くの中でロザリンド・クラウスについて言及され、パルスあるいは水平性といった問題が議論されていることは象徴的であり、この際にはクラウスとイヴ=アラン・ボアによって96年にパリで企画された「アンフォルム」展が主要な参照項となっている。モダニズム美術の限界が露呈された今日、そこで否定あるいは隠蔽された主題を再考する重大なモメントとしてシュルレアリスムが再び脚光を浴びているということであろう。
 シュルレアリスム美術をどう語るか_b0138838_1650186.jpg林と鈴木の公開書簡は書簡という形式をとっているため、求心的な議論ではないが、この主題に関する最良の論者の対話にふさわしく刺激に満ちている。そのほかの若い書き手の論文は比較的短いこともあって必ずしも説得的ではないにせよ、もはや瀧口修造を参照せずともシュルレアリスムを論じることが可能な新しい世代が登場したことを明確に告げている。
by gravity97 | 2008-04-29 16:50 | 近代美術 | Comments(0)