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私を強くひきつけるのは、例えば迷宮入り事件のように、未解決性、未決定性、可能性などの「空虚」を充満した事物であります。
漁師が海に釣り糸を垂れます。浮標が海面に浮かんだとき、膨大な海水の体積は、突如可能性の空洞に変貌します。事物の充満はスクラップの山であります。たとえそれが魅力的な女性であっても、傑作といわれる芸術作品であっても、あるいは爽快さを与えてくれる青空であっても同じことであります。「空虚」が充満しなければなりません。
魚が漁師の針にかかり、それを手元に引きあげるとき、その一匹の魚は、彼をとりまく全空間に充満します。魚は釣れてはいけないのです。ここに最も重要な問題があります。逃がした魚がいくら大きくとも、いまだ姿をあらわさない魚は、大きさについてばかりでなく、釣るべき魚として完璧です。不可解な事件を警察は解明してはいけないのです。どうして探偵作家は、せっかく築きあげたみごとな空虚に、結末でもってスクラップをぎっしりつめてしまうのでしょう。

by gravity97 | 2014-12-05 21:32 | PASSAGE | Comments(0)
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優雅な生活が最高の復讐である


by クリティック
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